「ポリカーボネート:光学用途への展開」


1. 光学用途と要求特性、光学用樹脂とその特性
代表的な光学用途と各々の要求性能を表1に、光学用樹脂とその特性を表2*1にまとめた。
光学用途の中で最も重要な特性は透過率である。透過率は、入光時および出光時の反射、通過時の吸収,散乱の因子により支配される。反射は屈折率の高い材料ほど大きくなる。また、媒体通過中の光の吸収は、可視領域では、共役二重結合骨格を持たない樹脂の方が少ない。
よって、屈折率が高く、ベンゼン環を有するPCは、アクリル樹脂や非晶質ポリオレフィンに比べ低い透過率を示すが、耐熱性、耐衝撃性、低吸水性、成形性が求められる用途ではPCの特性が必要とされる。
表1.光学用途と要求特性
  光ディスク 精密レンズ メガネレンズ 導光板 光ファイバー
高透過率
分散特性
低複屈折率
伝送損失
成形性,転写性
低吸水性
耐熱性
耐衝撃性
低ダスト性
表2.光学用樹脂と特性
項目 単位 PC
(ユーピロン H-4000)
アクリル樹脂 非晶質ポリオレフィン
<物理的性質>
 密度   1.20 1.19 1.01
 吸水率 0.2 0.3 <0.01
 全光線透過率 90 91 90
 屈折率   1.583 1.492 1.530
 光弾性係数 Pa^-1 77×10^-12 6.0×10^-12 6.3×10^-12
 垂直複屈折 nm <30 <20 <25
 (ダブルパス)斜め30度 nm <160 <20 <20
<熱的性質>
 ガラス転移温度 145 110 140
 熱変形温度 124 90 121
 熱伝導率 W/(m・K) 0.19 0.19 0.20
 線膨張係数 K^-1 6×10^-5 6×10^-5 8×10^-5
<機械的性質>
 降伏応力 MPa 63 71 63
 破壊呼びひずみ 90 5 10
 曲げ強さ MPa 90 110 100
 曲げ弾性率 MPa 2300 2900 2300
 Iz衝撃強度 J/m 98 20 59
 鉛筆硬度   3H
 膜密着性  
 耐薬品性  
 価格   ×
2. CD、DVD、MO等の光ディスク用PCの特性
現在、光学用PCの使用量が最も多い分野は、CD、DVD、MOをはじめとした光ディスク分野である。(写真:ユーピロンH4000)
光ディスク用PCには、転写性、低複屈折性が必要であり、一般のPCに比べ、流動性の向上が図られている。また、信号エラーの要因となるダストを減らすため、製造工程における徹底したダスト管理が図られている。光ディスク用PCの一般的な特性を
表3に示す。
今後、記憶容量100GBを越える次世代光ディスクでは、環境変化に対する機械特性安定化のため、高耐熱性、低吸水性を向上させたPCの開発が必要とされる。
コンパクトディスク ユーピロンH-4000
表3.光ディスクグレードの基礎物性
項目 測定法 測定条件 単位 ユーピロン
H-4000
ノバレックス
7020AD2
ノバレックス
M7020AD2
密度 ISO 1183     1.20 1.20 1.20
MFR ISO 1133   g/10min 72 72 72
吸水率   23水中,24h 0.24 0.24 0.24
降伏応力
破壊呼びひずみ
ISO 527-1
527-2
t3.2mm MPa
63 62 62
76 80 80
曲げ強さ ISO 178   MPa 94 93 93
曲げ弾性率 MPa 2300 2300 2300
Iz衝撃強度 ISO 179-1
179-2
t3.2mm 
23 Notched
kJ/† NB NB NB
DTUL ISO 75-1
75-2
0.45MPa 136 138 138
1.80MPa 123 123 123
光線透過率 ASTM D1003   91 91 91
屈折率 ASTM D542     1.583 1.583 1.583
光弾性係数 エリプソメーター   10^-13cm2/dyn 72 72 72
ご注意 上記のデータは、測定値の代表例です。(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)カタログより)
M7020AD2は、地球環境の保護を考慮した当社独自の技術により合成されたポリカーボネートです。
3. CD、DVD用ピックアップレンズ等の精密レンズ用PCの特性
CD,DVD用ピックアップレンズをはじめとした精密レンズは、ガラスから非球面化に有利なプラスチックレンズに変わってきた。PCは、低分散(高アッベ数)と高分散(低アッベ数)の材料を組み合わせた色収差の補正レンズに、アクリル樹脂との組み合わせで使用される場合が多い(図3*2、図4*2)。精密レンズ用PCとしては、表3に示したような光ディスク用グレードをベースにした材料が使用される。今後成長の期待される用途としては、光ファイバーの分波に使用するレンズが注目される。
図3.光学用プラスチックの屈折率と分散(アッベ数)
図4.色収差レンズの構成例
4. メガネレンズ用PCの特性
メガネレンズは、軽量化,薄肉化にともない樹脂化が進んでいる。その中でもPCレンズは割れにくいため、PL対応で広く使用されるようになってきている。
メガネレンズ用PCには、耐衝撃性を上げるために、粘度平均分子量が25000〜28000程度のPCが用いられる。更に目を保護するため、400nm以下の紫外領域をカットする必要がある。メガネレンズ用材料の一般的な特性を
表4に示す。
今後は、耐衝撃性を保持したままで、低複屈折性、低分散性、透明性を更に改良したPCが必要とされる。
表4.メガネレンズグレードの基礎物性
項目 測定法 測定条件 単位 近視用
380nm以下カット
CLS1000-1(仮称)
保護メガネ
380nm以下カット
CLS1000-2(仮称)
サングラス
400nm以下カット
CLS-400(仮称)
密度 ISO 1183     1.2 1.2 1.2
MFR   280,2.16kg g/10min 7.5 6.1 6.6
色相 YI     1以下 1以下 5以下
降伏応力 ISO 527-1 527-2 t3.2mm MPa 77 77 75
破壊呼びひずみ     160 155 150
曲げ強さ ISO 178   MPa 90 90 95
曲げ弾性率     MPa 2240 2230 2340
Iz衝撃強度 ISO 179-1 179-2 t3.2mm  J/m 890 900 890
    23 Notched        
ご注意 上記のデータは、測定値の代表例です。(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)カタログより)
YIの値は、板厚2mmプレートでの測定値。
5. 液晶用導光板用PCの特性
モニターやパソコン用ディスプレーの液晶化、携帯電話やPDAの普及が進み、液晶の需要が急激に増加している。
現在、モニター用等の大型の液晶では、透過率の高いアクリル樹脂,非晶質ポリオレフィン、携帯電話等の小型の液晶ではPC、非晶質ポリオレフィンが使用されている。
導光板には、高輝度が必要であるため、透過率、成形性、パターン転写性、低ダスト性等を改良したPCが用いられる。反射板を含めた液晶部品用PCの一般的な物性を
表5に示す。
今後、導光板の薄肉化、家電へ液晶の普及が進み、耐衝撃性、耐熱性、難燃性に有利なPCへの切り替えが進むと推測される。
表5.液晶に使用されるグレードの基礎物性表
  導光板用グレード 反射板用グレード
項目 測定法 測定条件 単位 ユーピロン
H-3300
ユーピロン
H-3700
ユーピロン
H-4000
ユーピロン
EHR3100
ユーピロン
HPR3000
ユーピロン
HR3001NR
密度 ISO 1183     1.2 1.2 1.2 1.30 1.31 1.31
Q値   280,1.57kN 10-2ml/sec 23 30 39 15 20 18
降伏応力 ISO 527-1 527-2   MPa 62 62 63 54 63 56
破壊呼びひずみ 110 100 76 75 53 76
曲げ強さ ISO 178   MPa 93 93 94 85 102 91
曲げ弾性率 MPa 2300 2300 2300 2410 2550 2380
シャルピー衝撃強度 ISO 179-1 179-2   kJ/㏖ NB NB NB NB NB NB
9 8 7 20 49 19
DTUL ISO 75-1 75-2 0.45MPa 136 136 136 135 118 135
1.80MPa 123 123 123 122 106 119
成形収縮率   MD 0.5-0.7 0.4-0.6 0.4-0.6 0.5-0.7 0.4-0.6 0.5-0.7
TD 0.5-0.7 0.4-0.6 0.4-0.6 0.5-0.7 0.4-0.6 0.5-0.7
難燃性 UL94 t1.6mm         V−0 V−0 V−0
t0.8mm         V−2 −−− V−0
ご注意 上記のデータは、測定値の代表例です。(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)カタログより)
6. プラスチック光ファイバ用PCの特性
プラスチック光ファイバーは、無機ガラス系に比べ大口径、高開口数での可撓性に優れ、加工しやすいという特性があり、短距離通信分野や、光センサー分野に使用されている。一般的には、アクリル樹脂が広く使われているが、高耐熱性の必要な自動車のエンジンルームで使用される場合には、PCが適している。
  光ファイバー用PCには、低複屈折性が必要であるが、押出時の結晶化の問題があるため、光ディスク用PCより若干高い分子量のPCが用いられる。粘度平均分子量18000前後のPCが好ましい。PCコア光ファイバーの伝送損失を
図5*2に示す。
図5.ポリカーボネートコア光ファイバーの伝送損失
ポリカーボネート(PC)は、光学特性、成形性、機械物性、価格のバランスが良好な樹脂である。上記の光学用途に加え、透明性を活かした自動車のランプレンズ用途やグレージング用途、照明用途へのさらなる展開も期待。

文献
*1)吉岡博、透明ポリマーの屈折率制御、化学総説39、1998、日本化学会編、学会出版センター(1998)
*2)本間精一、ポリカーボネート樹脂ハンドブック、日刊工業新聞社(1992)


http://www.m-ep.co.jp

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