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| 反可塑剤添加系ポリカーボネートの特徴とその光ディスク基板の特性 | ||||||||||||||||||||||||||
| 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 | ||||||||||||||||||||||||||
| 1.はじめに | ||||||||||||||||||||||||||
| 近年、ハイビションの衛星デジタル放送の開始やインターネットのブロードバンド化に伴い、大容量のデジタル情報の記録を目的とした記録媒体が必要とされている。その中でもCD−R(追記型コンパクトディスク)、MO(光磁気ディスク)あるいはDVD(デジタル多用途ディスク)といった光ディスクは安価であり、長期信頼性に優れ、リムーバブルな媒体として今後も広く普及していくであろうと考えられる。その光ディスク基板の製造は透明樹脂の射出成形によって得られるが、スタンパーに予め刻印されているピットやグルーブといったサブミクロンあるいはナノメートルオーダーの微細な形状を基板に転写させる必要がある(図1)。記憶容量が高密度になればなるほど高精度転写技術のみならず、低複屈折、基板の平坦度等の要求も厳しくなる。従って高精度射出成形技術の進歩と同時に使用される樹脂の特性も向上させなければならない(1,2)。従来から光ディスク基板材料はPC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、環状ポリオレフィン(非晶質ポリオレフィン)等が用いられてきたが、透明性、寸法安定性、耐熱性、強度、コスト、供給安定性といった観点からPCが最もバランスが取れた材料と言える(3)。その中でも特にビスフェノールA型のポリカーボネート(図2)が広く普及している。次世代の高密度光ディスク基板用樹脂の要求特性としては、短波長領域(ブルーレーザー)での透明性、耐熱性、高流動性、高転写性、低複屈折性、剛性の向上や低吸水性による低反り性(基板の平坦度)、あるいは高表面硬度、ダンピング特性、反射膜への低腐食性、低コストといった性能も必要とされる。 筆者は従来の光ディスク用PCに"反可塑剤(antiplasticizer)"を少量添加することによって透明性や低コストを維持したまま上記の必要特性を向上させることができることを見出した。(4,5,6,7)。 反可塑剤に関する研究はJacksonとCaldwellの1960年代のパイオニア的研究に遡る(8,9,10)。彼らはPCあるいはその他の剛直で極性基を有する樹脂に反可塑剤を添加することによって、透明性を維持したまま、靭性は低下するが剛性(弾性率)が増加することを見出し、マトリックスの高分子にそのような特徴を持たせるいくつかの物質を反可塑剤と名づけた。さらには、反可塑化効果を生み出す物質の極性、ガラス転移温度、剛性、分子サイズの特徴をまとめた(9,10)。反可塑剤効果の中でも剛性の増加に関しては2種類のメカニズムが提唱されている。極性基を有する反可塑剤とマトリックスのポリマー間に働く相互作用、あるいは反可塑剤のマトリックスポリマーの自由体積を埋める効果である。後者の場合、極性基を持たない物質でも自由体積を埋めることによって反可塑化効果が生じる。筆者は、反可塑剤をPCに添加すると系のガラス転移温度が低下し、同時に剛性が増加するという特異的な現象に着目し、この特徴の光ディスク用PCへの応用を試みた。即ち、ガラス転移温度の低下は金型温度を上げるのと等価の効果があり、高転写性、低複屈折性(低歪み)に寄与できるのではないかと考えた。また剛性の増加は、基板が金型温度から室温まで冷却される間に生じる熱収縮変形に対抗する、即ち低反り性への寄与を期待した。さらには反可塑剤が自由体積を埋める効果があるため、水分子の侵入を防ぎ、低吸水性も期待できると考えた。この様な特性の発現は比較的少量添加で達成できるため、ポリマーのモノマーを変えて分子構造を改良するよりも既存の樹脂が使用できるといった観点から低コストも期待できる。反可塑剤の重要でかつ興味深い特性は高温状態(溶融状態)では通常の可塑剤的な働き、即ち分子鎖間の潤滑効果を発揮させ、低温(金型から取り出された後から室温まで)状態では強化フイラーの様な働きをすることである。JacksonとCaldwellはいくつかの種類の反可塑剤を提唱した(8,9,10)が、本検討ではPCに対して相溶性に優れ、工業的に比較的に入手可能なメタターフェニル(m-tPh)(図2)を用いた。彼らの定義によるとm-tPhは極性基を持たないので厳密には反可塑剤のカテゴリーからはずれるが、環境問題の観点からハロゲン化ターフェニル(8,9)は好ましくなく、またガラス転移温度の減少と剛性の増加という要求性能を十分に満たすので採用した。 本検討(11)でのPCは光ディスク用PC(粘度平均分子量16,000)を用いた。m-tPhのPCへの混合は一般的な溶融押し出し機にて行った。光ディスク基板の成形はDVD−R(追記型デジタル多用途ディスク、4.7GB)のスタンパーを用い、グルーブの転写性、複屈折、反り(チルトアングル)の測定を行った。また得られた成形基板を用いて、透過率の波長依存性、吸水率、表面硬度の測定を行った。動的粘弾性測定は溶融状態からの降温過程はスリットせん断弾性率、ガラス転移温度以下の挙動は室温からガラス転移温度までの昇温での引っ張り弾性率を求めた。また反可塑剤とPC間の局所的な分子間力の挙動は-150〜0℃までのtanδを求めた。 さらに本検討結果から、光ディスク基板の成形時の転写、複屈折、反りの現象と、樹脂の溶融状態からの降温過程での粘弾性特性の挙動が密接な関係にあることを見出し、光ディスク用樹脂の理想的な粘弾性特性挙動のモデルを提唱した。本技術報告では反可塑剤添加系PCの特徴とそれを用いた光ディスク基板の特性について紹介する。実験方法及び詳細な結果についてはfull paper(11)を参照されたい。 |
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| 2.反可塑剤添加系PCの特徴 | ||||||||||||||||||||||||||
| 2.1 ガラス転移温度と弾性率 図3にm-tPhの添加量(重量%)に対するPC組成物のガラス転移温度と室温での曲げ弾性率(ASTM D-790)を示す。m-tPhの添加量が上がるにつれてガラス転移温度が減少し、弾性率が増加しており、この系での反可塑化効果が確認された。 |
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2.2 流動特性 図4に320℃における粘度のせん断速度依存性を示す。m-tPhの添加量が上がるにつれて粘度が低下しており、流動性が向上していることを示している。この流動性の向上は基板の複屈折低減に期待できる。m-tPhは極性基を持たないので溶融状態でのPCとの相互作用は弱く、むしろ可塑剤的効果が発現していると考えられる。また添加量が上がるにつれてせん断速度依存性が小さくなっており、光ディスク基板成形での成形条件の調整が容易になることも期待できる。 |
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2.3 透過率の波長依存性 図5に0.6mm厚みの成形基板の透過率の波長依存性を示す。5%添加系でも400nmでの透過率は80%以上であり十分な透明性が保持されている。m-tPhがPCに対して相溶性が高いことを示している。 |
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2.4 低温でのtanδ 反可塑剤による室温での弾性率の増加は低温でのβ転移(2次転移)の減少が寄与していると言われている(12)。反可塑剤とマトリックスのポリマーとの局所的な分子間相互作用はβ転移のtanδのピークで表される。m-tPh添加系PCの10Hzでの昇温(2℃/m)での引っ張りモードにおける低温でのtanδの温度依存性を図6に示す。m-tPhの添加量が増えるにつれてピーク強度が減少しており、添加量に応じてm-tPhとPCの相互作用が増大し、PCの分子鎖の局所的動きが制限されている。その結果が室温での弾性率の増加に寄与していると考えられる。 |
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| 3.反可塑剤添加系PCを用いた光ディスク基板の特性 | ||||||||||||||||||||||||||
| 3.1 転写性 図7に金型温度が105℃で成形されたDVD-R基板のグルーブの転写性のAFM像を示す。m-tPhを添加するとグルーブの転写性が飛躍的に向上していることが判る。また図8に金型温度と成形基板のグルーブ深さ(転写性)の関係を示す。m-tPhを添加することによって同一転写性を確保するには金型温度を下げることが可能になる。低金型温度での成形は後述する様に成形基板の反りの減少が期待できる。 |
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3.2 転写性と反りの関係 図9にグルーブ深さ(転写性)とチルトアングル(反り)の関係を示す。通常、転写性を向上させるために金型温度を上げると基板の反りが増大する。m-tPhを添加することによって転写性が向上するために金型温度を下げることが可能となり、結果として反りが減少する。また、m-tPhの添加によりガラス転移温度から室温までの間の弾性率も増加(後述)するので金型から取り出されて室温までの冷却の間に発生する熱収縮による反りに対して抵抗する効果も寄与していると考えられる。 |
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3.3 複屈折 図10に複屈折(基板垂直入射での面内複屈折)の金型温度依存性を示す。通常金型温度が低いと成形時の歪が大きくなり複屈折が増大する。しかし、m-tPhの添加によって同一金型温度で比較すると複屈折が減少している。これは上述した様に溶融時の粘度が減少するので成形歪が減少したと考えられる。 |
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3.4 飽和吸水率 図11に成形基板を用いて得られた飽和吸水率(ASTM D-570,23℃,24hr)を示す。m-tPhの添加によって吸水率が減少している。これは反可塑剤がPCの自由体積を埋めるために水分子の侵入を制限したため(12)と考えられる。光ディスク基板用樹脂の低吸水性は、次世代の高密度光ディスクの薄型カバー層構造ディスク(13)の基板側からの吸水による反り発生の低減に期待できる。 |
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3.5 表面硬度 図12にマイクロビッカース硬度の測定結果を示す。m-tPhの添加によって表面硬度が増加している。添加量を増やすことによって、透明で表面硬度に優れるPMMAに近づいている。これは射出成形品の表面が内部に比べてm-tPhの濃度が高いことによるものと推定される。表面硬度の増加は薄型カバー層構造ディスク(13)の光透過層であるカバー層用材料への応用にも期待できる。 |
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| 4.反可塑剤添加系PCの粘弾性特性挙動 | ||||||||||||||||||||||||||
| 筆者は、光ディスク基板の転写性、複屈折の発生、反りの発生という現象と使用されるポリマーの溶融時及び溶融から室温までの降温過程での粘弾性特性挙動が密接に結びついているのではないかと考えた。何故なら上記の現象は基板の射出成形中の溶融状態から室温までの冷却過程で発生するからである。溶融状態及びガラス転移温度付近までの降温過程の粘弾性特性はスリットせん断を用いてせん断弾性率を求めることによって把握できる。しかしながらガラス転移温度以下では樹脂が固化することによって収縮によるすべりが発生するので、正確な測定が不可能になる。従って本検討では、ガラス転移温度以下室温までの粘弾性特性は通常の引っ張りモードでの昇温測定で求めた。 |
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4.1 溶融状態及び溶融からガラス転移温度までの降温過程での粘弾性特性 図13にせん断貯蔵弾性率(G')の測定結果を示す。溶融状態からガラス転移温度までの広範囲に渡り、m-tPhを添加することによって弾性率が減少している。この結果は上述した流動特性での粘度の減少に対応している。複屈折は溶融状態での分子配向歪及び冷却収縮歪から形成されるが、m-tPhを添加することによって、溶融状態での弾性率(粘度)が減少し、結果として分子配向歪みが減少し、複屈折が減少したと考えられる。転写性は溶融状態から樹脂の流動性が停止するガラス転移温度までの過程で支配されるとすると、m-tPhを添加することにより、その領域での弾性率の減少が転写性向上に寄与していると考えられる。上述した様にガラス転移温度の低下も同時に転写性向上に寄与している。 |
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4.2 室温からガラス転移温度までの粘弾性特性 図14に室温からガラス転移温度付近までの引っ張り貯蔵弾性率(E')の測定結果を示す。m-tPhを添加することによってガラス転移温度以下の領域で弾性率が増加する傾向にある。通常、金型温度はガラス転移温度以下に設定されるので、金型から取り出された後は弾性率が増加し、室温までに冷却される間の熱収縮による反りに抵抗できる効果が発現すると考えられる。 |
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| 5.光ディスク基板用樹脂に対する理想的な粘弾性特性挙動 | ||||||||||||||||||||||||||
| 上記の結果から、高転写性、低複屈折性、低反り性が発現する理想的な粘弾性特性挙動を提案した(図15)。即ち溶融状態及びガラス転移温度までの領域では弾性率が低くなることにより、低複屈折、高転写性が発現し、ガラス転移温度以下では弾性率が増加することによって低反り性が発現する。この様な粘弾性特性挙動を示す材料を開発することによって高品質な光ディスク基板の製造が期待できる。 | ||||||||||||||||||||||||||
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| 6.まとめと今後の課題 | ||||||||||||||||||||||||||
| 反可塑剤添加系PCの特徴をまとめると、 1)ガラス転移温度が低下し、室温での弾性率が増加する。室温での弾性率の増加は低温でのβ転移の減少に関係し、反可塑剤とPCの局所的な分子間相互に起因する。 2)溶融時の粘度が減少し流動性が向上する。溶融時には反可塑剤は"可塑剤"的な働きをする。 3)反可塑剤添加によって透明性が著しく損なわれることはない。 4)吸水率が低下し、表面硬度が増加する。 となる。またその光ディスク基板は、転写性が向上し、複屈折が減少し、反りが低減することが見出された。 さらに、溶融状態及びガラス転移温度までの領域で弾性率が低くなることにより、低複屈折、高転写性が発現し、ガラス転移温度以下では弾性率が増加することによって低反り性が発現する、といった光ディスク基板用樹脂に対する理想的な粘弾性特性挙動を提案した。このモデルは反可塑剤添加だけではなく様々な材料設計にも適用できると考えられる。 反可塑剤添加系の欠点として、成形時のガスの発生、衝撃強度の低下、耐熱性の低下等が挙げられる。本検討ではPCに対してm-tPhを用いたが、その他の反可塑剤(8,9,10)の挙動も興味深い。また本検討では光ディスク基板への応用を試みたが、それ以外の、例えば透明高流動高剛性が必要な成形部品にも適用の可能性が広がる。反可塑剤添加系材料は既存のポリマーを用いて低コストで特異的な物性が発現するので、今後はさらなる展開が期待できる。 |
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| 参考文献 | ||||||||||||||||||||||||||
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