住友重機械工業: 炭酸ガスによる微細転写成形と成形事例

住友重機械工業株式会社
住友重機械工業プラスチック機械事業部


放射光微細加工技術 高アスペクト比射出成形技術 射出圧縮成形による
転写性向上技術
炭酸ガスによる微細転写成形と成形事例 <はじめに>
 近年、プラスチック成形現場では、導光板や光学素子のように、製品の肉厚を薄肉化したり、表面形状をより微細化することにより、高付加価値成形品を生産する努力がなされている。微細転写成形の側面から観ると、ナノインプリント技術の台頭によりサブミクロンパターンの転写もできるようになりつつあるものの、そのタクトタイムは数十秒から数分と長く、成形品の量産という観点では、射出成形技術には及ばない。
 微細転写成形の開発現場では、現状の量産型よりもさらに表面形状の奥行が深い、高アスペクト比の製品が開発されている。製品の成形技術が確立し、成形業界におけるニーズとうまく適合すれば、市場が拡大する可能性がある。
 当社でも多方面から技術開発をしてきたが、複数の問題点があり実用化できないでいた。微細形状の金型加工の側面から見ると、精密機械加工や微細放電加工技術があるものの、パターン形成に制約があるため、複雑な形状の金型形成が困難である。また、半導体技術を用いてシリコン(Si)を高アスペクト比ドライエッチングした構造体から電鋳転写することで金型を形成することも試みられているが、エッチング壁面の面粗さが荒い、壁面が逆テーパーになる等、成形品の離型特性に悪影響を及ぼすことがある。他方、成形の側面から見ると、仮に高アスペクト比の金型ができたとしても、微細形状の末端まで樹脂を入れ込むことは難しく、完全な転写条件を、現有設備の機械で設定することが困難であった。
 これらの問題点を解決する手法として、ここでは、まず高アスペクト比加工性、加工壁面性状特性に優れた放射光X線を用いたLIGAプロセスを紹介し、金型(スタンパー)を形成した事例を説明する。さらに、転写性の向上が可能な成形手法であるAMOTECを紹介し、これを利用した射出成形による量産向け高アスペクト比微細転写成形事例について説明する。また射出圧縮を同時に行った成形事例についても説明する。

1.放射光微細加工技術
1−1.放射光とは?
 「シンクロトロン放射光」(以後、放射光またはSR光)とは、光速に近い速さまでに加速された電子の塊を電磁石の力で曲げることにより曲げられた電子軌道の接線方向に放射される光(電磁波)のことである。この「放射光」は、従来の光源に比べてその明るさ(輝度)が極めて高く、赤外からX線(ガンマ線)までの広い波長領域をカバーしており、原子・分子の世界をみるための優れた観測(分析)道具として、また、マイクロ・ナノ微細加工などの物作りの手段として、あるいは医療診断・治療などの有効な手法として基礎科学から様々な応用分野にいたるまで無限の可能性を秘めている。
図1 田無製造所内に設置された小型放射光装置AURORA-2S外観 工業利用可能な微細加工技術の一つとして放射光を用いる場合、産業界へ普及しつつある小型放射光装置を用いることが好ましい。住友重機械工業(株)では、超伝導磁石を使用した世界最小の放射光装置「AURORA」の開発に成功した。1995年以降、本装置は立命館大学殿にて安定に稼動し続けている。その後、常伝導磁石を使用した小型放射光装置「AURORA-2」(蓄積電子エネルギー=700 MeV)を開発し、挿入光源の設置が可能である研究用装置(2D型)を広島大学殿に納入し、産業用に特化した装置(2S型)を当社田無製造所、技術開発センター内に設置した(図1)。装置の小型化及び商品化の進展のおかげで、従来、大型の研究施設でしか行うことができなかった放射光利用がより身近な所でできるようになり、産業利用(特に、微細加工技術としての利用)が急速に進んでいる。

1−2.LIGA, TIEGA 錺廛蹈札†
プロセス LIGA TIEGA 金型作製
転写方法 リソグラフィー エッチング 電鋳
材料 PMMA樹脂 フッ素樹脂 Ni , Cu , Au
加工深さ 500μm 1500μm 500μm
加工寸法精度 0.5μm 1μm アスペクト比
表面荒さ(Ra) 0.04μm 0.2μm 0.1μm
テーパー 0.3μm/
100μm
0.6μm/
100μm
0.3μm/
100μm
表1 放射光微細加工仕様
 LIGA(独語:Lithographie, Galvanoformung, Abformung)プロセスは、1980年代初期にドイツのカールスルーエ原子核研究所(FzK)にて遠心分離によるウランの同位体分離に用いる高精度微小ノズルの安価な製造方法として開発された微細加工プロセスである。放射光装置から出てくるX線の優れた直進性を生かした深いリソグラフィー(描画法)により、レジスト(感光性樹脂。たとえばアクリルPMMA)をパターニングし、そのパターンを鋳型として電鋳で金型を製作し、モールドによって各種成形材料の微細部品の大量生産を行う(図2(a))。深さ(高さ)数100μmで幅は数μmといった高アスペクト比(水平方向の幅と高さの比率)の微細構造体を製作することができ、その加工精度は1μm以下で、加工面粗さも50nm級という平滑度での加工が可能である(表1)。
 しかし、LIGAが適用できない材料もある。フッ素系高分子や光学結晶(LiF, KBr等)がそれに相当する。特にフッ素系高分子の一つである<Teflon>PTFEは、電気的、熱的、化学的特性に優れており、様々な分野での微細部品作製にとって有用な材料の一つであるが、一般的には、数千μmの高さで数十μmの幅を持った微細構造を作製することは困難である。PTFEを溶融する溶剤はなく、融点を越えて加熱してもモールドに必要な粘性が得られないからである。我々は、レジストPMMA の代わりにPTFEを使って、放射光照射で真空中で直接、PTFEをエッチングする微細加工技術を開発し、電鋳金型製作を組み合わせて、独自のTIEGA 錙†Teflon Included Etching and Galvanic forming)プロセス(図2(b))を保有している(表1)。また、放射光によるエッチングでは、PTFE等のポリマーだけではなく、光学結晶の加工も可能である。
 21世紀のナノテク時代の到来とともに、各種の電子・光学・機械部品の寸法微細化や表面加工精度の向上が求められる中、弊社技術開発センターでは、急増する放射光微細加工のニーズに対応すべく、その加工サービスを行っている。
(放射光微細加工サービスHP:http://www.shi.co.jp/srmicro/index.html

図2 LIGA(a),TIEGA・(b)プロセスおよび加工品例


1−3.金型(スタンパー)形成
 LIGAプロセスを用いて、射出成形用の高アスペクト比Ni電鋳微細金型(スタンパー)を製作した。電鋳材には、高硬度で低応力のスルファミン酸Niを採用している。LIGAスタンパーの外形は42x75mm、厚みは500μmである。表面パターン部は、短軸方向中心線に対して上下に凹凸反転形状の線対称パターンとした。パターン形状は、様々な微細成形ニーズに答えるため、ドット、格子、十字、L/S、曲線流路等、種々のパターンを入れ込んだ。最小幅は5μm、深さ(または高さ)は、15μmとし、最大アスペクト比を3とした。図3にLIGAスタンパーの外観および各部形状と一部の電子顕微鏡写真を示す。また、図4には、スタンパーおよび成形品(後述)の電子顕微鏡写真を示した。
図3 LIGA スタンパー外観(左)と拡大SEM写真(右) 図4 成形品(上:AMOTEC成形、中:通常成形)及びLIGAスタンパー(下)の電子顕微鏡写真

2.高アスペクト比射出成形技術 →



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