2002年PBTの展望


ポリブチレンテレフタレ−ト

 1.概 況

 ポリブチレンテレフタレ−ト(PBT)は、1,4−ブタンジオ−ル(1,4−BD)とテレフタル酸(TPA)、またはテレフタル酸ジメチル(DMT)との重宿合反応によって得られるポリエステルであり、これをこのまま、あるいはこれにガラス繊維、フィラ −、難燃剤、その他の添加剤をコンパウンドして製造されている。
 PBTをエンジニアリングプラスチック(エンプラ)として最初に企業化したのはアメリカのCelanese社(現Ticona社)であり、1970年にガラス繊維強化グレ−ドが上市された。
 それ以降、PBTの持つバランスのとれた性能が評価され、「五大汎用エンプラ」の一つとして定着し、今日に至っている。
 PBTは自動車、電気・電子分野を中心とした市場開拓により、この30年間で国内市場は約10万トン/年の規模まで成長した。また、アジア地区でも市場が拡大しており、日本を含めたアジア全体では約20万トン/年まで規模が拡大し、今後も高い成長が期待されている。
 しかしながら、日本国内のメ−カ−はこれまで10社を数え、さらに海外のメ−カ−の一部が輸入されて市場に供給されており、きわめて厳しい競合状態にあった。
一方、国内ユ−ザ−の東南アジアや中国を中心とした海外展開や欧米ユ−ザ−のアジアへの展開により、日本国内メ−カ−もアジア向けの輸出を急速に拡大してきた。しかし、アジア市場では、大きな力を持つ欧米メ−カ−に加えて韓国、台湾、さらには中国のメ−カ−の台頭により海外アジア市場は国内よりも熾烈な競合状態にある。
 このような日本国内、海外でのメ−カ−間での熾烈な競合状態は採算性を低下させており、日本国内の各メ−カ−は転換期に来ていた中で、ポリプラスチックス(株)と帝人(株)が両社合弁の製造・販売会社「ウィンテックポリマ−(株)」を2000年7月に設立し、PBT事業を統合した。さらに、同社は2001年4月に宇部興産(株)と(株)クラレのPBT事業を移管した。また、同社は2002年には5万トン/年のPBT連続重合プラントの稼動を予定している。
一方、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)のポリマ−生産を担当する三菱化学(株)による6万トン/年規模の連続重合プラントの計画も報道されている。
 このように、ポリマ−プラントの大規模化やメ−カ−の再編成が始まっており、今後も再編成が活性化されることも予想されるが、一方では、事業拡大に向けて各社はポリマ−アロイや複合化などの技術革新を行い、高機能・差別化材料の開発に凌ぎを削っている。 
参考に、表1と表2にそれぞれ日本国内のメ−カ−と海外のメ−カ−を示す。


 2.需給動向

 国内のPBTベ−スポリマ−の生産・販売量の推移を表3に示す。2000年のPBTの生産,販売量は大幅な伸びを示した。1992年、1993年は不況の影響により生産・販売量が減少したが、1994年に入り増加に転じた。これは国内販売が伸び悩む一方で,輸出が急増したためであり,電気・電子分野などの東南アジアを中心とした海外生産の増加とパソコンの需要拡大の時期が一致したことによるものと思われる。1997年は,自動車分野の需要の増加と輸出の好調により,生産量,販売量ともに記録的な伸びを示した。
しかし,1998年は一転して金融不安に端を発した東アジアのバブル崩壊による輸出減少と国内景気の低迷により国内需要が落ち込むというダブルパンチを受け,生産・販売量が減少した。この低迷は1999年前半まで続いたが,アジアの景気回復による輸出増と当初2000年問題による駆け込み需要と思われた相乗効果により後半から需要が急速に回復し,1999年の生産・販売量は,通年で前年度比プラス成長となった。
 なお2000年は,1999年後半からの2000年問題の駆け込み需要後の低迷の懸念を払拭し,さらに高い成長率を示し,需要回復が本物であることを示した。
 しかしながら,2001年はアメリカ経済の減速による深刻なIT不況により一転して厳しい状況にあり,生産・販売量ともに減少を余儀なくされると予想される。
 PBTの用途別販売構成を見ると、図11)のように自動車分野が電装部品の用途の増加により,電気・電子分野を凌駕しているものと推定される。また、フィルム等の非射出成形用途が増えてきたことが最近の傾向である。
 PBTは近年、電気・電子分野での海外日系ユ−ザ−への輸出の増加と自動車分野の用途拡大により販売数量を伸ばしてきた。アメリカ経済の減速によるIT不況により、すぐには内需、輸出ともに期待できないであろうが、自動車電装部品等の市場は成長し、引き続き低成長ながらも市場は拡大していくものと思われる。
 PBTに求められるニ−ズは以前にも増して高性能、多機能化しており、各材料メ−カ−は世界的な競合関係の厳しい環境下で事業拡大に向けて高機能材料の開発に凌ぎを削っている。これらの成果がグロ−バルな対応を可能とし、新規の需要を創出し、さらに幅広い用途分野に使用されることが期待される。

 3.技術開発動向 

 PBTは、電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性などの特性と難燃化が容易な特性を生かし、電気・電子用途に幅広く使用されている。自動車用途においても電気絶縁性の信頼度が高い点で電装部品への適用例が多い。
 一方、クリ−プ特性、耐磨耗性、耐候性、寸法安定性などから機械部品に使用されている。 PBTの用途開発が進むにつれて、低ソリ・低変形、高耐衝撃性、耐加水分解性、耐ヒ−トショック性など市場からの要求は多岐にわたり、各要求に応えるため、様々な工夫を施し、高機能化を達成している。例えば、高寸法安定化のための非晶性樹脂とのポリマ−アロイ化、高衝撃化のためのエラストマ−等の添加、更にはそれら特性の複合化などが一般的な技術として、各PBTメ−カ−とも相当グレ−ドを用意している。また、市場でのモジュ−ル化及び小型化に応えるべく新たな機能付与が進んでいる。加えて、最近は環境への配慮に応えることが必要となって来ている。

 3−1.耐磨耗性

 PBTはナイロンやポリアセタ−ルと同様、耐磨耗性に優れるが、三菱レイヨンでは表4に示す各環境下での耐磨耗性を付与したラインアップを用意し、他樹脂または金属等との摩擦・磨耗性を大幅に改良し、パソコン・ゲ−ム機などのODD部品および複写機・プリンタ等のOA部品に幅広く使用され、高い評価を得ている。
 
               
 3−2.良外観

 PBTは結晶性の高い樹脂のため、非晶性樹脂に比較して光沢・ヒケおよび無機充填剤の成形品表面への浮き出しなど、成形品の外観は決して高いレベルとは言えない。
三菱レイヨンでは独自のポリマ−アロイの複合化技術により、表5に示すグレ−ドを開発、上市し、熱器具や調理熱器具、暖房機器等のハウジング、OA・機構部品及び自動車ランプのエクステンション等に展開している。
 

 3−3.金属熱融着材料

 この度、三菱レイヨンはプラスチック成型品メ−カ−と共同で、アルミニウムに強固に熱融着するPBT材料を開発した。
 これは、三菱レイヨン独自の複合化技術により開発したPBT材料を特殊表面処理したアルミに熱融着させるものであり、例えば、表面処理したアルミを金型内にセットして樹脂を射出成形する方法で両者が強固に一体化する。この方法により、ノ−トパソコンなどの筐体は、プレス加工にて作製したアルミに樹脂製のボスなどを後から一体化することで大幅なコストダウンが期待できる。

 写真1に、一体成形したアルミ板と樹脂の参考例を示す。


写真1 一体化されたアルミ板とPBT樹脂

3−4.その他

 最近では更なる機能性付与として、PBTポリマ−自身の改質とポリマ−アロイとの複合化技術が用いられ、新規用途開拓に寄与している。例えば、PBTに他の成分を共重合することによりPBTの結晶性を低下させ、寸法安定性の改善や同樹脂・他樹脂などとの融着性(接着性)を改善することが可能であり、一部使用されている。また、PBT系アロイとしては、PBT/PET、PBT/PC、PBT/ABSが挙げられる。PBT/PETアロイはPBTの外観改良、PBT/PCアロイやPBT/ABSアロイはPBTの耐衝撃性や寸法安定性の向上を目的としてしており、それぞれの持つ優れた特徴を活かした用途展開が進んでいる。一方、PBTは従来、射出成形用途がほとんどを占めていたが、フィルム分野への応用例が出てきており、今後の新規需要分野として期待されている。これは、PBTフィルムの持つ加熱滅菌処理に耐える耐熱性や耐薬品性、酸素/水蒸気バリア性等の特性により、食品や医薬関連用途に使用されつつある。また、PBTに他の成分を共重合することにより低温靭性などを改良することで、さらに幅広いフィルム用途が期待される。

 4.環境問題
 
 PBTの難燃化においては、一般的には臭素系難燃剤と難燃助剤である三酸化アンチモンが併用される。
 しかしながら近年、焼却によるプラスチック廃棄物処理に伴う有害物質(ダイオキシンなど)発生問題に強い関心が持たれており、EUでの廃電気・電子機器(WEEE;Waste Electrical&Electronic Equipment)リサイクル指令案及び危険物質指令案(RoHS)の欧州域内での法制化への動きが明確になってきている。
 RoHSにて使用禁止になる臭素系難燃剤はPBB(ポリブロモビフェニ−ル)とPBDE(ポリブロモジフェニルエ−テル)であり、PBTの大部分に使用されているその他の臭素系難燃剤を使用制限物質に指定してはいない。
 ここで問題はリサイクル指令案であり、回収製品から鉛,ハロゲン系難燃剤を含む部品を分別,適正処理することが盛り込まれている。しかし、部品の回収、分別、その後の処理について未だ具体的な方法は明示されていない。
 日本を含むアジア及びアメリカではこのような具体的な規制の動きはないが、電気・電子機器メ−カ−や樹脂メ−カ−では欧州での上記動向を注視し、自主規制の動きがある。
 このような状況を受けて各PBTメ−カ−はノンハロゲン系難燃剤を使用した材料開発を進めており、一部は既に市場に流れているが、性能バランス及び材料価格は依然、臭素系難燃剤使用材料に及ばない点があり、更なる改良検討を継続している。
 PBTはガラス繊維や他の充填剤との複合材料が多く,しかも難燃化されたものが多いため、リサイクルは難しい問題である。製造工場からの廃棄物削減努力や成形時に発生するスプル−、ランナ−等の再利用を成形メ−カ−と協力して検討・推進するとともに、リサイクルに適した材料開発やリサイクル技術開発への取り組みを深める必要がある。また、社会的な分別・回収システムの確立がリサイクル遂行には是非とも必要である。

 5.今後の課題・展望

 PBTは近年、海外日系ユ−ザ−への輸出の増加及び自動車分野での用途拡大を主な理由としてその販売数量を伸ばしてきたものの、昨今のPBTを取り巻く環境は非常に厳しいものがある。
 これまでの東南アジア・中国市場に加えてアメリカやヨ−ロッパへの進出により国内メ−カ−の輸出比率は増加し、グロ−バリゼ−ションは既に進行しており、それに対する供給体制や価格を含めた国際競争力の強化が重要となっている。そのため、冒頭に述べたように、国内のPBT業界では厳しい競合状況に中で、生き残りをかけた事業再編の動きが始まったように見られ、この動きは今後更に進行していくものと予想される。
 自動車と電子・電気は今後ともPBTの重要な用途拡大分野である。しかし、ニ−ズはますます高度化、多機能化しており、さらに安全性や環境性をプラスした技術確立が自動車分野や電子・電気分野のみならず、新規な用途開拓にもつながり、ひいては国際競争に対応できうる力となるものと考える。
 引き続きユ−ザ−と密接な関係を持ちつつ、高付加価値を持った技術開発や環境問題を考慮した材料開発に注力し、新規な需要を創出することでPBTがますます発展するよう努力したいと考えている。



〈参考文献〉

1)プラスチックス、52,6,p.53(2001)
  

三菱ケミカル株式会社

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