はじめに
ナノサイエンス、ナノテクノロジーのトップランナーといわれているナノカーボンは、今や電子デバイス、燃料電池、パネルデイスプレイ材料、ガス吸着あるいはMRIの造影剤などへの広範囲の応用・実用化研究が急速に進んでいる。ナノカーボンの研究開発は極めて広範囲にわたるため、これからナノカーボンの研究開発に参画しようとするとき、ナノカーボン研究の基礎と応用・実用研究を概観することが難しいとの声を多く聞く。また、すでにフラーレンやカーボンナノチューブの研究を実際に進めている研究者や技術者にとっても、専門分野以外の最近の発展を把握することが困難になってきている。
フラーレンやカーボンナノチューブの基礎科学に関しては現在までに、いくつかの優れた内外のモノグラフや解説書が出版されている。ただ残念なことに、これらの本にはナノカーボン研究の応用と実用化に関しての記述がほとんどない。フラーレンやカーボンナノチューブの多量合成法の発見から12年あまり経過した今、ナノカーボンの応用・実用展開は文字どうり日進月歩で展開している。フラーレンやカーボンナノチューブの製品が実際に実用化され市場に出始めている。一冊で最近のナノカーボンの応用・実用研究の全体像を掴むことができるモノグラフがあれば、実際の研究室や開発現場でナノカーボン研究に携わる際に極めて有用であろう。本書はこのような要請に応えるために企画された。
本書はナノカーボンの応用・実用化研究およびその企業戦略に焦点をしぼったモノグラフである。各章の執筆者は、ナノカーボン研究の各分野の第一線で活躍している、現在考えられる最高の執筆者である。また、フラーレンとカーボンナノチューブに関する基礎的な章を設けたが、ナノカーボン分野の研究の基礎事項を平易に解説してあり、多くの読者にとって非常に参考になるであろう。本書がきっかけとなり、新しいナノカーボンの研究開発が展開されることを切望する。
2003年8月
名古屋大学大学院 理学研究科 物質理学専攻 教授
名古屋大学 高等研究院 CREST 新技術開発事業団 篠原 久典