刊行にあたって
1978年から2004年まで自動車企業において、様々な材料技術とエネルギー技術の研究開発に取り組んできた。1978年入社当初には排ガス制御触媒材料の研究開発を希望していたが、そうはならず、代わりに自動車の腐食制御の開発に取り組むことになった。もともと化学系が専攻だったので、その領域で成果を出すことを目標とした。
1980年代初頭は、日本の自動車企業が欧米市場へ輸出を拡大した時期であるが、冬季に零下20-30度まで気温が低下するところもマーケットとなっていた。このような地域では路面凍結防止を目的として融雪塩を散布するために、自動車が塩害を受け、結果として車体やシャーシ機構の腐食問題が勃発した。この打開策は結局、車体や機能部品の材料と表面処理、その上に形成される塗膜の機能に依存していたために材料技術と材料界面の制御がキーとなっていた。それが解決されるまでには5年近くの年月が費やされた。
一方、現在の環境問題において、リサイクルと触媒技術は重要なキーテクノロジーとなっている。ガソリン自動車の排ガス制御から、燃費の良いディーゼル用のNOx還元触媒の技術も進化し着実な成果が出つつある。他の触媒領域では、本多-藤嶋効果が原点となっている光触媒が、トンネル内の排ガスによる汚れ防止や撥水効果を利用した自動車ミラーへの応用など、実用化が進んでいる。
そしてさらには地球温暖化の進行に注目が集まっているが、そのためにも排ガスを抑えるための燃費向上やCO2が著しく少なくなる新エネルギーの導入などに期待がかかっている。自動車の軽量化や電動駆動システム、水素エネルギーなど、その領域は多岐に亘るが、その中で特に材料やプロセス技術がキーになっている。表示材料も商品性を支える機能材料になっていて、テレビやパソコン表示材料の進化とともに新しい機能を提供しつつある。
エネルギー関連領域では燃料電池や二次電池、電気二重層キャパシターなどもすべてがエネルギー機能材料から構成されていて、ブレークスルーも材料技術に中心が集まる。電池の電極材料と電解液にしても、単独の機能とともにそれらが作る界面とバルクの状況によって性能も著しく異なる。それは電気二重層キャパシターでも燃料電池でも同様で、これらを織り成す機能材料の数々が多くの技術革新をもたらしている。
燃料電池自動車が社会に本格的に普及するにはまだ10年単位の時間が必要であるが、昨今の原油高騰によるガソリン価格の上昇は売れている自動車のカテゴリーを変えつつある。米国自動車メーカーが得意としていた大型自動車の販売に急速なブレーキがかかり、日本が得意としているコンパクトカーで代表される燃費の良好な自動車とハイブリッド自動車の販売急増が注目されている。このような背景から、米国自動車企業のシェアが低下する一方、日本の自動車のシェアが向上していることは時代の象徴となっている。今後ますます拡大されるハイブリッド自動車と燃料電池自動車は日本の競争力が高いことを考慮すると、この傾向は一層加速され、世界の自動車販売力地図が大きく塗り変わっていくことを暗示される。
他方、このような環境とエネルギーに根ざす材料技術については、技術開発と連動して特許競争が活発になっている。基盤技術を充実させ、新たなパラダイムを提供できる技術とそれを育む企業が国際競争力を勝ち抜いていくであろう。
本書は、自動車の材料技術、特に機能材料の先端技術に視点を置いた本格的な書籍である。従来はエンジンや車両制御の背後にあって割合地味な技術領域であったが、現在および今後は本書に採り上げられた材料技術が自動車技術の変革に大きく貢献していくことが容易に推察できる。
第一線で活躍されている著名な方々にご多忙の中、ご執筆頂いた。日本が世界に誇る光触媒やリチウムイオン電池は将来ノーベル賞を受賞する可能性もあり、その候補者であられる(財)神奈川科学技術アカデミー理事長・東大名誉教授藤嶋博士と旭化成グループフェロー吉野彰博士にもご執筆頂き、本書の質の高さを保証する結果となった。
最後に、本企画を執り行って頂いたシーエムシー出版の常務取締役・小林氏と編集担当の小塚氏、制作責任者の新井氏に感謝申し上げます。
2005年6月 SAMSUNG SDI Co.,Ltd 佐藤登