大気中CO2濃度の増大による地球温暖化、洪水や砂漠化など地球規模の異常気象、そして化石資源の枯渇や石油の高騰など、人類の暮らしの危機が叫ばれている。ここにきて、問題解決の切り札ともいえる水素エネルギーや水素社会について人々の関心と期待が高まっている。最も軽くシンプルな元素であり、燃え滓は水だけという究極のクリーン燃料が"水素"である。水素のあるところ、どこでも燃料電池を用いて、手作りの電気を利用することが出来る。電力やガスなどのエネルギー産業のみならず、自動車、郵船、鉄道などの物流・運輸業界、製鉄、化学工業界さらにはITデバイス産業にとっても水素の利用は21世紀の重要な技術開発テーマとなっている。"これからのエネルギーの主役"として期待される「水素」。水素を暮らしの中で身近に使う「水素社会」を目指すために、水素を効率よく貯蔵し、安全にそして経済的に輸送する貯蔵材料の開発が需要である。自動車、家庭用発電、パソコン、携帯電話などそれぞれの用途に合わせて、水素を安全・簡便に貯蔵して輸送し供給する水素インフラ技術の開発が緊急な課題である。最近、安全で軽量・コンパクトで輸送において取り扱いが良好なシクロヘキサン・デカリンなどの有機ハイドライドや、カーボンナノ材料など有機貯蔵材料を利用する水素の貯蔵・供給技術の実用化に向けた開発が国内外で積極的に進められている。さらに、無機系材料から炭素系及び有機系貯蔵材料、新しい有機錯体材料の登場、それらのナノ材料設計、そしてガスハイドレートや機能性高分子材料への広がりは目覚しいものがある。
本技術書においては、有機や無機貯蔵材料の化学と水素やメタンに対する吸蔵特性を理解して、貯蔵材料のナノ技術に関する最近の研究成果を紹介する。有機貯蔵材料を主軸にナノ材料設計から機能開発、そして応用展開に繋げられる。従来技術はできるだけ限定して、新規な貯蔵材料の開発コンセプトや水素のインフラ技術開発のフロンティアのみならず、水素社会にむけての無機・有機貯蔵材料の実用化開発の状況とインフラ技術の展開に関して最新データや技術紹介を、各分野の大学・研究所の研究者のみならず、とりわけ産業界でご活躍のエキスパートに執筆を担当していただいた。
今回、日本で初めて「水素社会に向けての有機貯蔵材料とナノ技術」に関する専門書を出版することが出来たことは、この分野の今後の展開を考えると、大きな意味を持っていると自負しております。本書が有機貯蔵材料と環境ナノ技術に興味を持つ学生の皆様をはじめとして大学、研究所とくに企業現場の若手研究者の研究開発とアイデア作りにお役に立てば幸いである。
(「刊行にあたって」より)
2007年12月 北海道大学名誉教授 市川勝