刊行にあたって
構造材料は、成熟産業の成熟材料で、新たな展開が期待できない分野とされ、長期的な研究開発戦略が練られることも、主要な研究プロジェクトが実施されることもなかった。しかし、構造材料を取り巻く環境は大きく変化している。人々は、グローバル化により、物、資金、情報の流れを妨げる壁が撤去され、世界の市場が共通のものとなり、社会・経済環境が一変したことを肌で感じている。それに適合する社会・経済構造とすることを政府に強く求めている。特に科学技術には、社会・経済に直接貢献することを求めており、CO2による地球温暖化等の環境問題やエネルギー問題に即応し、新たな雇用を創出して生活水準を維持・向上させ、さらには、安全・安心で快適な生活環境を期待している。構造材料は、このような問題に対応し、期待に応えていくのに、大きな役割を担うことになる。CO2削減のための高効率エネルギー機器用セラミック等の耐熱構造材料、燃費向上のための炭素繊維強化プラスチックやスーパーエンプラ等の軽量・高強度構造材料、世界のインフラの新設・増設のための高耐食・高強度鋼等の高性能構造材料、安全・安心社会のためのスマート構造材料、次世代ロボットや宇宙航空用のカーボンナノチューブ構造材料などである。
このような社会・経済の変化に対応できる構造材料とするためには、研究開発を見直し、長期的な戦略を構築しなければならないであろう。そこで、(財)池谷科学技術振興財団の研究・調査推進費の補助を受け、「次世代構造材料調査委員会」を(社)未踏科学技術協会内に発足させ、次世代構造材料の最新の研究について調査・分析し、研究開発推進の指針を得ることとした。調査委員は次世代構造材料の各分野の専門家で構成され、次世代構造材料研究開発の問題点、今後の在り方、最新の研究を把握する方法について討議した。第1編の「次世代の社会・産業が必要とする構造材料」は、この議論を踏まえて作成した。有力な次世代構造材料を対象とした各編の構成はそれぞれの材料担当委員が企画し、取りまとめた。
我が国の構造材料を含めた材料技術の水準は高く、世界をリードしている。この高い技術水準をさらに高め、また、積極的に活用して、社会・経済が必要とする分野においてイノベーションを起こすような最終製品として応用・実用化することが強く求められている。構造材料の開発には、長期間の研究が必要であり、応用・実用化には高度の戦略性が必要となる。今回、取りまとめた「次世代構造材料の最新技術」が、そのための資料・指針となることを期待したい。
(「はじめに」より)
2008年5月 次世代構造材料調査委員会 委員長
(独)物質・材料研究機構 材料ラボ リサーチアドバイザー 新谷紀雄