刊行にあたって
本書は2004年に出版された「高分子の架橋と分解―環境保全を目指して―」の第2版である。編集の基本方針は前著と変わっていない。本書の性格上、実用的な見地から高分子の架橋と分解を紹介することに基本をおいているが、高分子の分解と架橋についての基礎およびこの分野の最近の動向についても取り上げた。
材料開発の観点からポリマーを取り扱うと、架橋反応は重要な反応である。すなわち、ポリマーの力学的強度、耐熱性、あるいは溶解性など特異な物性を発現する。しかし、現在のようにポリマー材料が膨大な量で利用されるようになると、使用済みの材料の後処理、すなわちリサイクルを含めた廃棄の仕方が課題となる。特に、熱可塑性のポリマーと異なり架橋したポリマーではリサイクルを含めた廃棄の仕方が大きな課題となる。
本書では基礎的な立場からは高分子の架橋と分解の理論および反応例(特に具体例として塗料)を取り上げただけでなく、これまで不可能とされていた架橋分子の架橋構造解析についての項目を取り上げた。
架橋を利用したポリマー材料は多く利用されており、例を挙げるまでもないが、今でも進歩し続けているものが多い。例えば、汎用化が進んでいるフェノール樹脂および複合材料などについてはその現状と課題を含めた展望について解説をお願いした。さらに、今後重要になると考えられるトピックスとしては、物理的な架橋すなわちスライドリング架橋や植物由来の材料の架橋反応についても取り上げた。
先端技術と関連して架橋反応を利用する表面加工(UV硬化)と微細加工(フォトレジスト)は実用的に関心の高いトピックスである。前者では高効率で経済的な光源として興味が持たれているLED(発光ダイオード)と酸素存在下で硬化阻害がないチオール・エンUV硬化など実用面でその動向が期待されるテーマを取り上げた。後者では、光酸・塩基の増殖の現状、無機有機ハイブリッド材料の利用、架橋と分解機能を持つ材料など興味深いトピックスを含めた。
最近では架橋したポリマーのリサイクルが実用化に向けて進展を続けている。リサイクル技術構築においてはポリマーの架橋と分解をどう設計するかは興味深いテーマであるだけでなく、環境保全の立場からは必須の技術である。本書でもリサイクルに関する現状と展望について多くテーマを取り上げた。
高分子の架橋と分解は材料開発の観点から重要な反応である。実用性を加味した本書は新しい材料開発に大いに役立つと思う。特に、本書がこの分野の基礎と応用を勉強するときのよき伴侶となれば幸いである。
(「はじめに」より)角岡正弘(大阪府立大学 名誉教授)、白井正充(大阪府立大学 大学院 教授)