発刊にあたって
本書は、新しい蓄電デバイスである、リチウムイオンキャパシタに関して詳しく述べた技術書である。太陽光ならびに風力発電、家庭用燃料電池などが最近急速にクローズアップされ、ハイブリッド電気自動車が販売のトップで推移し、ハイブリッドではない電気自動車も普及段階に入りつつある昨今、蓄電によって電気エネルギーを効率的に運用する技術に大変関心が集まっている。従来からのエネルギー用途としての蓄電デバイスには二次電池と電気二重層キャパシタがあるが、この両者のスペックの間を埋めるものとして、リチウムイオンキャパシタが登場した。この新しい蓄電デバイスを単独で取り上げた技術書は、国内外ともにこれまではなかったと思われる。そういう意味で、本書は貴重である。
リチウムイオンキャパシタは、登場してから数年しか経っておらず、製品としても製造が始まったばかりであり、まだまだ新しい技術だけに改良の余地が少なからず残されている。そして何よりも現在でも開発途上の技術が多く、特に企業からは未公開の事項や技術も多い。そういった現状の中で本書を企画し、出版まで至るのは容易ではなかった。本デバイスの構成から応用についてご見識のある執筆者諸氏から原稿を寄せて頂いたが、進行中の技術ゆえに確信を持って書けないことや、様々な制約があったことと推察する。改めてご執筆頂いた多くの先生方に深く感謝を申し上げたい。
本書ではリチウムイオンキャパシタの基本から構成部材や材料について、そして幾つかのバリエーションや関連デバイスについて解説している。また後半では応用技術動向や市場動向について触れており、リチウムイオンキャパシタに関心のある諸氏はもちろん、新規なハイブリッドキャパシタの開発者、さらには二次電池や従来型キャパシタの開発者や研究者にとっても有益な書であると信ずる。それは、リチウムイオンキャパシタは電池からキャパシタまでの技術を横断的に含んでおり、それらは相互に影響しうるものだからである。
リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタと同じく、日本で本格的に実用化された蓄電デバイスであり、今後の進展が期待されている。本書がリチウムイオンキャパシタを含む蓄電デバイス技術の発展に少しでも資するところがあれば喜びに堪えない。
(「刊行にあたって」より抜粋)
2010年10月 関西大学 石川正司